動物のおしごと

おしごとファイル

コンパニオンドッグ・トレーナー
刈屋美和さん

2001年 学校法人ヤマザキ動物専門学校卒

(職歴)
2001年 コンパニオンドッグスクールPLAY BOW入社
2006年よりスクールの傍らヤマザキ学園 インストラクターを勤める
2007年 独立。WELLBE DOG SCHOOL代表
現在に至る

WELLBE DOG SCHOOL
http://wellbe-dog.com

(資格)
コンパニオン・ドッグ・トレーナー(CDT)
アニマル・ヘルス・テクニシャン(AHT)
ペット・グルーミング・スペシャリスト(PGS)
英国APDTメンバー
Association of Pet Dog Trainers
(APDT:英国家庭犬トレーナー協会)

コンパニオンドッグ・トレーナーのお仕事についてお聞かせください


photo by いとうしんや

コンパニオンドッグ(家庭犬)のトレーニングが、「WELLBE DOG SCHOOL
(ウェルビー・ドッグスクール)」の仕事です。まずトレーニングに入る前に、直接ご自宅に伺って、カウンセリングを行います。飼い主さんのお話を聞き、ワンちゃんの様子も見て、うまくいくコツをお話したり、改善ポイントをご提案させていただいています。
その後、犬のトレーニングに入ります。トレーニングというと、警察犬の高等訓練のような、厳しい、絶対服従の訓練をイメージされる方も多いかも知れませんが、私たちのスクールでは、人と犬が共に気持ちよく暮らせるような、食事や健康や精神面などトータルで考えるしつけを目指しています。人で言う、小中学校のようなイメージでしょうか。また、グループレッスンや、ドッグスポーツのアジリティを楽しむクラスも開講しています。

普段は、カウンセリング、トレーニング、学校での授業などで、東京近郊をあちこち動き回っています。もともと決まった場所で一つのことをする仕事より、いろいろな体験ができる仕事の方が性に合っているようで、忙しいながらも、とても充実した毎日を送らせていただいています。

飼い主が変わると犬も変わる

トレーニングのご相談は、大きく2つのタイプがあります。
1つ目は、初めて犬を飼う方や「家の中で飼うのは初めて」という方で、飼い方を教えてほしいというケース。
2つ目は、飼っているわんちゃんが手に負えなくなってしまった、というケース。

犬を飼うなら飼い主も知識を、という1つ目の理由でトレーニングを依頼していただけるのは本当にうれしいことなのですが、実際には2つ目のパターン、手に負えなくなってのご相談も少なくありません。トイレ(どこにでもしてしまう)、噛む、他の犬や他人に吠える、散歩の時言うことを聞かない、引っぱる....
「家の犬は全然言うことを聞かないんですよ」とおっしゃる飼い主さんは多いのですが、飼い主さんが犬の気持ちをわかっていないことに原因があったりもします。
トレーニング前のカウンセリングでは、できる限りご家族全員に揃っていただいて、日頃のお世話についてお話を伺うようにしています。聞いているうちに、ご夫婦や親子で、誰が悪いのかと言い合いになりそうなこともありますが、両者をうまくなだめながらお話を聞いて、導いて行かなければなりません。
家族全員が忙しく、ほとんどお散歩に連れて行ってもらっていないワンちゃん。たまに連れて行くと、言うことを聞かない。だからお散歩に連れて行くのがおっくうになってしまう。犬っていうのは、散歩をしないではいられないなんですよ、というところから説明しなければならないこともあります。
逆に、一人で家にいる時間が多い飼い主さんの「かまいすぎ」も。ワンちゃんの方も飼い主さんが大好き過ぎて、ひとりでお留守番ができなくなってしまうケースもあります。飼い主さんが留守の間中鳴き続けて、近所に迷惑をかけてしまうし、その子もオットセイのような痛々しいかすれ声になってしまう。犬は元々群れですごす動物ですから、一人でいることを教えてあげないまま部屋にひとりぼっちにすると、寂しくなってしまうのは当たり前なんですよね。
カウンセリングを通して、犬の問題だけでなく、飼い主さんご自身の悩みが透けて見えるというようなこともあるような気がします。

トレーニングの主体は、私たちインストラクターではなく飼い主さんです。飼い主さんの考え方や扱い方が変わらなければ、犬の動きは変わりません。
そこに気づいていただけるかどうかが、トレーニングの成否をきめる大切なポイントだと私は思います。
不思議なことに、なにもトレーニングしなくても、カウンセリングをしただけで犬が変わるときもあります。飼い主さんが変わると犬が変わる、ということなんですよね。そんなときは、私の話を聞き入れてくれたんだな、とうれしくなります。
インストラクターの仕事というのは、対飼い主さんのコミュニケーションが大事だなぁと、日々感じます。犬も人も好きというタイプでないと、なかなか勤まらない仕事かもしれません。

刈屋さんはどのような経緯でお仕事に就かれたのでしょうか

実家には、私が生まれる前から飼っていた柴犬がいました。18才まで長生きし、老犬介護とも言えるお世話をして、亡くなったとき私は高校2年生でした。悲しいというより、最後までお世話をやりきったという、ほっとした思いが強かったのを覚えています。
犬を飼うなら、一生をつきあう。その大切さを、飼い犬から教わりました。その時の気持ちが今の仕事の原点にあるように思います。

高校の卒業時、父の仕事を継ぐために工業系の勉強をすることと迷った末、動物の専門学校に進学しました。
ところが、学生時代、途中で目的を見失ってしまったのです。
今、教えている学生の様子をみていると、1年の夏というのは、みんな多かれ少なかれそんな気持ちになるものの様ですが、私もご多分に漏れず、やめてしまいたいと思い詰めて、授業もさぼりがち、というような状況でした。

そんなある日、グルーミングの実習で、私の担当だった犬の特記事項のところに「噛み犬」という文字がありました。「この犬は噛みます」という意味ですね。でも私はその子に噛まれずに実習を終えることができたんです。「扱い方次第なのよ」という先生の言葉を聞いて、はっとしました。
「扱い方を工夫すれば、問題行動を起こさせずに済む」
それ以来、噛み犬を担当するのが楽しみで...別の日に「噛み犬」くんがいるあたりから「きゃー!」とか声が上がっていると「あーやっぱり噛むんだなぁ」と面白く思ったりしていました。

多摩川河川敷の土手で行われる「コンパニオンドッグ・トレーニング」という授業も楽しみでした。トレーニングを担当の先生が扱うと、犬は本当によく言うことを聞くし、楽しそうに遊びます。授業が終った後も、最後まで残って先生の犬の扱いを観察し、いっしょに遊ばせてもらっていました。
こうして勉強していく中で、考え方や方向性がとても合うトレーナーさんと出会い、授業のない土曜日と日曜日はそのトレーナーさんの仕事にもついて回らせてもらっていました。実は、この方が私の師匠なんです。トレーニングの仕事に就きたい、という思いが次第に強くなった私は、師匠のトレーニングスクールで働かせてください!とお願いして、卒業と同時に働かせていただくことになりました。

師匠の仕事を間近に見て、たくさんの種類の犬とふれあったおかげで、犬種ごとの基本的な気質や、おなじ犬種でも個体によって性質が違うということが、実感としてわかりました。例えばダックスやビーグルは吠えることを良しとされた犬種ですが、全く吠えない子もいます。人が好き、と言われるゴールデンやラブラドールレトリーバーなのに人嫌い、ということもあります。それぞれにパーソナリティがあり、そういう子もいるんですよ、と自信をもってアドバイスできるのは、その頃の経験があったからだと思います。

大切なのは飼い主さんとの信頼関係

仕事中の師匠は犬だけでなく、飼い主さんとのコミュニケーションが抜群にスムーズでした。カウンセリング中の会話はもちろん、些細な部分でも、私にはとても思いつかないくらい気が利くのです。例えばトレーニング中に飼い主さんの両手が塞がってしまった時、差し出した手でなにを受け取ってあげればいいのか、荷物なのか、犬のリードなのか、そういうとっさの判断が的確で、私はいつも、すごいなぁと思っていました。
師匠の言葉や行動は、形だけではない、自然と頼りにしたくなるような心遣いに満ちていました。師匠の前職は何だったと思いますか?実は、元ホテルマンだったのだそうです。

飼い主さんとおつきあいする時間は、短くて1ヶ月、今はもう5、6年おつきあいさせていただいている方もいらっしゃいます。期間は長くても短くても、おつきあいの中で、しっかり信頼関係を築き、安心して何でも相談していただけるようなトレーナーになりたいです。飼い主さんが挫折すると、犬も不幸になりますから。

こんなトレーナーといっしょに働きたい

いろんな犬がいるように、いろんなトレーナーがいていいと思うんです。でももし、私がいっしょに働く人をさがすとしたら、技術の優秀さよりも、気遣いができる人かどうかを重視したいです。そして、自分の飼い犬で苦労したことがある人であれば、更にいいです。犬が言うことを聞いてくれず困り果てる、ということを体験として知っている、それでも犬と絆を築いている、そういう人の言葉には、飼い主さんを納得させる力があります。
私も話下手な方でしたが、最初から話上手でなくても、仕事をするようになればある程度のコミュニケーションスキルは身に付くものです。何ごとにも気を回し、常に相手の先、先を考えて動こうという気持ちがある人がいいですね。

私自身の普遍的な目標は、これからも沢山の犬と飼い主さんに出会い、一つ一つ吸収し、新たな発見を経験値として積み上げて行きたい、ということです。犬と飼い主さんの組み合わせは無限ですよね。一通りのやり方だけでは、様々な要素に対応できません。その犬、その飼い主さん、それぞれに合う方法を選択するには、「犬に聞く」勉強が必要だということを、常々感じています。

もう一つ、老犬と飼い主のコミュニケーションについても、原点に立ち返って関わって行きたいです。できることなら、飼う前にも相談に来てもらえ、飼い主さんとワンちゃんとの一生のおつきあいをしていけるようなトレーナーを、目指して行きたいと思っています。

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